2015年02月10日

幽径耽読 Book Illuminationその21

  • 「ドミトリーともきんす」(高野文子作、中央公論社)
    ここは、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹が寄宿する学生寮。寮母のとも子さんと赤ん坊のきん子さんは、学生さんたちの思考と発想に耳を傾けながら暮らしています。なぜか日本の公教育が少しも教えてくれない、科学者たちの人間味溢れる表情や物腰を、高野の漫画が垣間見せてくれます。敢えて「漫画」と書いたように、多分、4人のキャラは、彼らと同時代に活躍した4人の漫画家のキャラを被せてあります(朝永が50年代の手塚風だったり、牧野は「矢車剣之助」風だったりする)。そして、圧巻はフィナーレを飾る湯川の「詩と科学」です。高野の漫画を背景にして、湯川の言葉に接するとなぜか胸に染み、落涙を禁じえませんでした。
  • 「日本霊異記」(原田敏明、高橋貢訳、平凡社ライブラリー)
    行基の説法を拝聴していた女が連れていた子は、10歳を過ぎても歩かず、泣き続け、乳を飲み食べ続けています。まるで『千と千尋の神隠し』の「坊」のようです。行基は「その子を淵に捨てろ」と再三勧告し、遂に女が流すと、その子は「あと3年お前から貪ろうと思っていたのに」と捨て台詞を呟きます。その子は前世の敵対者だったという話(中巻第30話)。ホドロフスキーの『ホーリー・マウンテン』で、ヨガの行者の勧めで、キリスト似の男が肩に乗せている侏儒を舟から投げ捨てる場面を思い出しました。蛇に犯された娘に薬草を飲ませて堕胎させる話(中巻第41話)、鳥の卵のような肉の塊から生まれた女の子が長じて尼となり、「外道」と罵られながらも高い知恵で仏道を究めて行く話(下巻第17話)、娘が結婚した夫は実は悪鬼で、初夜に頭と指1本を残して食われた話(中巻第33話)、未婚の女が男と交わることなく懐妊、神の宿る石を産む話(下巻第31話)、女性が絡む怪異談が私には特に面白かったです。
  • 「鳥/デュ・モーリア傑作集」(ダフネ・デュ・モーリア著、務台夏子訳、創元推理文庫)
    デュ・モーリア中毒です。ヒチコックの映画化で有名な「鳥」の恐ろしさは、核戦争の始まってしまった世界の隠喩ではないでしょうか。何しろ、主人公ナットは自宅のロッジを補強して、シェルターを作るのですから。「戦時中、空襲があった時と同じだ。国のこちら側では誰も、プリマスの人々がどんな目に遭ったかを知らない。人は、自らその被害を受けないかぎり、何事にも関心を抱かないのだ」。ナットの独白も有り触れた言葉に見えて奥深い怖さがあります。冬の寒い日が設定されているのですが、鳥の襲撃から一夜明けてみると、友人の農場からも、近所の公団からも一筋の煙も上がっておらず、火の気が無くなっている、その風景描写に慄然とします。ヒロインの心が不思議な山岳宗教に捕らえられてしまう「モンテ・ヴェリタ」、映画館の案内嬢に導かれて、自動車修理工の青年が闇の領域へ足を踏み入れてしまう「恋人」、有閑マダムが避暑地でアヴァンチュールを愉しんでいる内に煉獄に陥る「写真家」、富豪の若妻の自殺原因を求めて、探偵が辿る道のりが、まるで巡礼のように描かれる「動機」…。圧巻です。
  • 「オオカミの護符」(小倉美惠子著、新潮文庫)
    神奈川市宮前区土橋、東急田園都市線の鷺沼とたまプラーザの間にある地域が、一瞬にして、橘樹郡宮前村大字土橋に戻ります。護符を通して、著者が私たちを1960年代初頭へと誘うのです。やがて御嶽講の宿坊(わが教会学校も御岳山荘に泊ったことがあります!)を経、山岳信仰の源流を遡り、秩父の深奥へと分け入って行きます。オオカミのお産の鳴き声を聞きつける「心直ぐなる者」との出会いは感動的ですらあります。明治の廃仏毀釈は教科書でも教えていますが、明治政府が修験道禁止令を出したことは知りませんでした。山の神に抱かれて初めて成り立つ暮らしと祈りは、「自然」「環境」「里山」「宗教」といった語を当て嵌めることすら躊躇われます。労働にも「稼ぎ」と「仕事」の2種類があるという山村の流儀(内山節の説)、勉強になりました。
  • 「宰相の二番目の娘」(ロバート・F・ヤング著、山田順子訳、創元SF文庫)
    ヤングは自作中短編の長編化をする作家です。これは以前に読んだ「真鍮の都」でした。展開もオチの付け方も『時が新しかったころ』と似ています。少女が成長して、迎えに来てくれる(待っていてくれる)というパターンは、ハインラインの『夏への扉』と言い、どうやら、タイムトラベル物を書く男性SF作家(と、その男性読者)の願望みたいです。そんなことは最初から分かっているのですが、読んでいる間は、それこそ愛妾に寝物語を聞かせて貰っているスルタンの気分になれます。
  • 「いま見てはいけない/デュ・モーリア傑作集」(ダフネ・デュ・モーリア著、務台夏子訳、創元推理文庫)
    中学生の時『レベッカ』を読んで以来です。エルサレムの聖地ツアーにやって来た一行の受難劇「十字架の道」が面白そうだったので買いました。インフルエンザに伏した老牧師の代役を務めさせられることになった若い牧師の憤懣よく分かります。その老牧師のために無償の奉仕を続けて来た老嬢が、当の牧師が「付き纏われて困っている」と漏らしたとの噂を耳にして恐慌を来たす辺りもリアルです。ニコラス・ローグの『赤い影』の原作たる表題作、クレタ島に来た美術教師が体験するパン神の呪い(「真夜中になる前に」)、怖いです。亡き父の旧友を訪ねた新進女優が垣間見た不思議な世界(「ボーダーライン」)は、きらきらと輝く少女の感受性がお見事。「第六の力」は『ウルトラQ』の一ノ谷博士みたいな研究者の話。とにかく粒揃いの作品集です。
posted by 行人坂教会 at 15:52 | 牧師の書斎から

2月第3主日礼拝

       2月15日(日) 午前10時30分〜11時40分
説  教 ”人生の旅人” 音楽         朝日研一朗牧師
聖  書  ヘブライ人への手紙 11章13〜16節(p.415)
賛 美 歌  27、207、490、509、466、25
交読詩編  86編11〜17節(p.99)

あいさつの会(相互交流の会)      礼拝後
 (さんび)礼拝堂、(聖書輪読)記念室、(Café de 行人坂)階下ホール
・・・当日の音声録音を聴く
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