2015年09月15日

一点一画 one jot or one title(続き)その26

  • 「ゾンビの科学/よみがえりとマインドコントロールの探求」(フランク・スウェイン著、西田美緒子訳、インターシフト)
    ロシアのブリュコネンコは切断した犬の頭部だけを生かし続けました。米国のコーニッシュは殺した犬の蘇生実験を繰り返し、犬には聖書に因んで「ラザルス3号」等と命名しました。フリーマンは(ナイフを米神に刺して脳を切断する)初期ロボトミー手術を「心の手術」と称して繰り返しました。デルガドは患者の脳に電極を埋め込み、彼が攻撃性を発揮する前に抑制しました。いずれもグロテスクな生体実験です。しかし、現在では、人体は(血液や臓器や細胞を提供する)資源として流通し売買されています。クローンの問題も含めて、人間存在の固有性とか人格の尊厳とか、これまで信じられて来た価値観が科学と経済によって瓦解しつつあります。ハイチのゾンビは、死者を労働によって搾取することでしたが、今や、自然のままなら死んでいるべき人が「脳死」状態に留め置かれ、肉体を搾取される時代がやって来たのです。
  • 「黒い破壊者/宇宙生命SF傑作選」(A・E・ヴァン・ヴォークト、ロバート・F・ヤング他著、中村融編、創元SF文庫)
    やはり「ビーグル号」第1話に当たる表題作が、今読み直しても一番面白い。『遊星よりの物体X』『禁断の惑星』『エイリアン』その他の名作映画に与えた影響も窺い知れます。この作品にも、カリタという日本人考古学者が登場しますが、R・マッケナの「狩人よ、故郷に帰れ」にも、学者のトヤマ夫妻、そして、ミドリという名の魅力的なヒロインが出て来ます。いずれも異世界を解き明かす役回りなので、当時の欧米人にとってミステリアスな存在だったということなのでしょう。P・アンダースンの「キリエ」は、宇宙で活動する修道女エロイーズと、「ルシファー」と名付けられたエネルギー生命体との魂の交流を描いています。中世の修道女たちの神秘主義、神との合一をモデルにしています。J・H・シュミッツの「おじいちゃん」の主人公コードは、どこかエリスンの「少年と犬」を思い出させます。ヤングの「妖精の棲む樹」の語り手、世界樹の伐採者、ストロングは言います。「もしも、愛するものが殺されねばならないのなら、自分の手でそうしてやるのが慈悲だ。なぜなら、慈悲というものが殺人の一部になりうるなら、愛人にこそ、それを与えてやる最高の資格があるというものではないか」。と言う訳で、人類と遭遇する生命体よりも、それと対峙する人間側に思いが傾くのですが、これも加齢のせいでしょうか。
  • 「モサド・ファイル/イスラエル最強スパイ列伝」(マイケル・バー=ゾウハー&ニシム・ミシャル著、上野元美訳、ハヤカワノンフィクション文庫)
    私はシオニズムに対して批判的な立場ですが、それでもイスラエル国家及びモサドが、ユダヤ人同胞の命を徹底して助けようとする執念には、頭が下がります。例えば、1984年の「モーセ作戦」、1991年の「ソロモン作戦」では、エチオピアとスーダンから何万人単位で同胞を脱出させ、イスラエルへ移住させようとします。その目的達成のために、莫大な国家予算を注ぎ込み、如何なる犠牲も厭いません。1940年代、イラク在住の同胞10万人を移送した立役者となったスパイ、ダカルはイラク当局に逮捕、死刑を宣告されます。しかし、イスラエル政府の地道な交渉により、9年後に本国送還されるのです。「ダカルを帰国させるまで、モサドの長官たちは、創設当初の方針の1つをかたくなに守った。国民を生きて取り戻すためなら、努力と手段と犠牲を惜しむなかれ」。勿論、シオニストの立場で書かれた本であり、多分に美化されてもいるはずです。それでも、私は溜め息が出ます。戦前(移民政策)も戦中(将兵の人命軽視)も戦後(中国残留)も、現代(原発難民)も、一貫して「棄民政策」を続けている我らが政府とは、思想の立脚点が余りにも違っているからです。
  • 「18の奇妙な物語/街角の書店」(フレドリック・ブラウン、シャーリィ・ジャクスン他著、中村融編、創元推理文庫)
    江戸川乱歩の造語「奇妙な味」をテーマに編纂されたアンソロジー。今回一番のお気に入りは、イーヴリン・ウォーの「ディケンズを愛した男」です。S・キングの『ミザリー』を思い出させる展開です。分かっていても怖いのです。ロナルド・ダンカンの「姉の夫」も予想通りの展開。大好きなS・ジャクスンの「お告げ」は可愛らしい小品。書名の通り街の店が舞台になるのが、ネルソン・ボンドの「街角の書店」、テリー・カーの「試金石」、ハーヴィー・ジェイコブズの「おもちゃ」。仰天したのが、文豪スタインベックの「M街七番地の出来事」です。風船ガムがもたらす恐怖なんて、誰も発想できません。8歳の息子から「おとうさん、ぼくがガムを噛んでるんじゃない。ガムがぼくを噛んでるんだ」と、泣きながら言われたらどうしますか。ロジャー・ゼラズニイ(懐かしい!)の「ボルジアの手」、キリスト教神学を修めた作家ならではの「さまよえるユダヤ人」ネタにワクワク、ところが展開が平板、オチが何の捻りもなし。
  • 「オフシーズン」(ジャック・ケッチャム著、金子浩訳、扶桑社海外文庫)
    長男が「父の日」にプレゼントしてくれました(どんな親子関係なのか!?)。秋の閑散とした避暑地の別荘に都会からやって来た6人の男女が、突如、食人族に襲撃され、嬲り殺しにされていきます。ヒロインは逆さ吊りにされて、陰部から喉元まで切り裂かれ、内臓を引き摺り出されて、焚き火でバーベキューにされます。襲われた人たちも逆襲に転じ、マグナムを撃って族の頭を吹き飛ばしたり、煮えたぎる油とバターを族の女子供の頭の上にぶちまけて、大火傷させたり、遂に侵入して来た子供たちの首を鎌で切断したりします。しかし、この『リオ・ブラボー』か『要塞警察』のような、凄まじく残酷な籠城戦は序の口です。誰一人として無傷で終わることのない物語です。『サランドラ』『悪魔のいけにえ』『食人族』『わらの犬』『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』、更に、ゴールディングの『蝿の王』等の記憶がこの作品に熱い血を沸き立たせているのです。絶対にお勧めできない一冊です。
posted by 行人坂教会 at 14:01 | 牧師の書斎から

9月第3主日礼拝

       9月20日(日) 午前10時30分〜11時40分
説  教 輝かしい日が来る前に=@音楽    朝日研一朗牧師
聖  書  使徒言行録 2章14〜21節(p.215)
賛 美 歌  27、59、490、406、226、25
交読詩篇  142編1〜8節(p.159)

・・・当日の音声録音を聴く
posted by 行人坂教会 at 06:00 | 毎週の礼拝案内