2015年03月24日

杏の花が咲きました

1.花も実もある

行人坂教会の小さな中庭には、杏の樹と枇杷の樹があります。毎年3月下旬に入ると、薄紅色の花が一斉に咲いて、春が来たことを知らせてくれます。ヒヨドリ、ホオジロ、シジュウカラ、カワラヒワ等の野鳥たちが、どこからともなくやって来て、枝から枝へと飛び跳ねながら、花の芽をついばんで行きます。風が吹くと、淡い紅色の小さな花びらを一斉に舞い散らせます。

その佇まいを目にすると、「花より団子」の私ですら、何とも知れず幸せな気持ちになります。桜などとは違って、杏は「花も実もある」樹なのです。小学校時代、登下校路に面した家に枇杷が枝を伸ばしている庭があり、よく枇杷を失敬して食べたものです。そんな訳で、枇杷の樹には馴染みがあったのですが、杏の樹は行人坂教会に赴任して初めて、親しく接するようになりました。

赴任したばかりの年は、我が家の子どもたちも幼く(長男が小学校2年生、二男が幼稚園年中組)、未だ元気でしたので、よく二人して、猿のようになって、杏の樹に登って遊んでいました。その時の写真は、貴重に思われ、今でもリビングの写真立てに飾ってあります。凡そ、樹木にも草花にも無関心な私ですが、その写真を見ている内に、あの杏の樹には深い愛着を抱くようになったのかも知れません。

2.アルメニアン

アンズの学名は「Prunus armeniaca/アルメニアのプルーン」と言います。「プルーン」ですから「李/スモモ」です。イギリスでは「アプリコット」と言い、日本では「唐桃」とも言います。何でもアーモンドの近種でもあるそうで、そう言えば、アーモンドも漢字で「扁桃」と書きます。「扁桃腺」の「扁桃」です。

「アーモンド」と言えば、「エレミヤ書」1章「エレミヤの召命」が思い出されます。主なる神がエレミヤに問い掛けます。「エレミヤよ、何が見えるか」。エレミヤは答えます。「アーモンドの枝が見えます」。ヘブル語で「アーモンド」が「シャーケード」、その語に「見張る者、目覚める者」の「シャーカド」を掛けた洒落なのですが、それはアーモンドの純白の花が百花に先駆けて咲くからなのです。

杏は聖書には出て来ませんが、アーモンドの親戚ですから、行人坂教会には、かの樹が目覚めていて、私たちに春の訪れ(イースターが近付いていること)を教えてくれるのです。「あなたがたはまだ眠っている。休んでいる。時が近づいた」(マタイによる福音書26章45節)と言って「立て、行こう」と促しているのです。

杏の原産地は、ヒマラヤの西部からウズベキスタンのフェルガナ盆地とされています。しかし、古代の地中海世界に暮らす人たちにとっては、杏は「アルメニア」原産と思われていたようです。きっと、そこからもたらされたのでしょう。アルメニアは、聖書にも「アララト/Ararat」という地名で出て来ます。「創世記」8章で、ノアの箱舟が漂着した山として、「列王記下」37章と「イザヤ書」37章では、アッシリア王センナケリブを暗殺した2人の王子の逃亡先として、「エレミヤ書」51章では、新バビロニア帝国滅亡の原因を作る王国の1つとして、その名前が挙げられています。

アルメニアは、十二使徒の1人、バルトロマイが伝道し殉教した土地とされており、紀元3世紀初頭には、世界で初めてキリスト教を国教にしています。つまり、世界最古の「キリスト教国」なのです。昔から「ユダヤ人が3人束になってかかっても、1人のアルメニア人には敵わない」と言われるくらい商売上手だと言われています。

因みに、2005年版『キング・コング』、2011〜2014年版『猿の惑星』シリーズのシーザー、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ及び『ホビットの冒険』のゴラム(ゴクリ)、更には、2014年版『GODZILLA/ゴジラ』を、モーションキャプチャで演じている、アンディ・サーキスはアルメニア人です。世界広しと言えども、東西怪獣横綱、キング・コングとゴジラの両方を演じた人は中島春雄とサーキスしかいません。

3.杏にも仁あり

中国では「医者」、特に「名医」を「杏林」と言うのだそうです。何でも、三国時代(紀元3世紀)、呉の董奉(ドンフェン)は、患者から治療費を取る代わりに、家の周りに杏の苗木を植えさせたそうです。重病が治った人は5本、軽い病の人は1本との条件でした。数年後には、董奉の家の周りには「杏林」が出来ていたそうです。

その「杏林」が大量の実りをもたらした時、杏の実を求める人が訪ねて来るようになりました。すると、董奉は「お金は要らないので、同じ重さの穀物と交換します」と申し出たそうです。こうして大量の穀物を蓄えると、彼は「食べ物に困った人は、無料で穀物を分けますから、取りに来なさい」と言って、生活困窮者を助けたそうです。人々は董奉の徳を称えて、名医を「杏林」と呼ぶようになったとのことです。

それで「杏林大学」とか「杏林製薬」等というネーミングがあったのです。けれども、無料で診療してくれる医者はいませんし、無償で薬を処方してくれる製薬会社もありません。医療費の患者負担額が増えて、加齢と共に通院回数や薬の量も増えて、反比例して年金は減らされた上に、消費税と物価だけは上がって、家計のやり繰りに悩む庶民にとっては、飽く迄も「アプリコット・フォレスト」の故事は夢の話です。

そう言えば、梅干の種と同じく、アンズの種の中にも肉があって、苦味のある種類は「杏仁(きょうにん)」という生薬の原料だそうです。甘味のある種類は「甜杏仁(てんきょうにん)」と言って、中華料理のデザート「杏仁豆腐」の材料になるそうです。

牧師 朝日研一朗

【2015年4月の月報より】

posted by 行人坂教会 at 18:41 | ┣会報巻頭言など