2018年07月29日

太陽を背にうけて

1.楳図漫画

小学生時代に読んでいた「少年画報」という雑誌に、楳図かずおの『笑い仮面』という気持ちの悪いマンガが掲載されていました…。

その頃、楳図マンガは少女雑誌(「なかよし」「週刊少女フレンド」)から少年雑誌(「週刊少年マガジン」)へと、徐々にシフトして来ていました。「少年マガジン」には、楳図が作画した『ウルトラマン』が連載されていたのですが(1966〜1967年)、どうしようもなくホラーな絵なのです。「ウルトラマン」好きの私が避けて遠ざける程でした。

あの陰気臭いベタと異様に丁寧なペン入れ、特にキャラが悲鳴を上げた時の口元の線が、当時の私にとっては、如何とも受け入れ難く、楳図マンガは指で挟んで置いて、そのページだけを飛ばして読むようにしていたものです。それでも何かの拍子に(お菓子を取るとか、中座したとか)ペラッと、偶然そのページが開いてしまって「ぎゃあー!」「また、イヤなもん見てまった!」と、その後味の悪さから中々立ち直れませんでした。

例えば『半魚人』(1965年)は、両親を亡くした少年に異常な行動が目立つようになり、金魚を食べたり、鱗が生え始めたりして、次第に理性を失い、最後は海に消えて行くホラーです。物語の中では「千年後に陸地は水没するので、徐々に魚人化する人間が出始めている」的な説明が為されています。でも、そんな理屈は問題ではありません。圧倒的なのは楳図かずおの絵なのです。茫然と立ち尽くす弟の眼前で、遂に魚人化した兄が、裂けた口から牙を剝き出して「シャーッ!」と咆哮するのが最後の場面ですが、そんなページが開いてしまったりして、それから幾晩うなされたか知れません。

2.異常高温

さて、問題の『笑い仮面』(1967年)です。1940年に九州の日裏村で生まれた赤ん坊が全員、真っ黒な蟻のような姿に成る事件が起こりました。その後、全国各地で同じような赤ん坊が生まれ、生まれてすぐに走り回り、人を襲うので、彼らは皆殺しにされてしまいます。この赤ん坊たちは「アリ人間」と名付けられます。

天文学者の式島博士は、この「アリ人間」化現象が11年周期の太陽黒点と関連のあることを訴え、22年後の「大黒点の年」には、太陽熱に灼き尽くされて、地上の生命は絶えてしまうだろうと予言します。「アリ人間化」現象は生存本能によって引き起こされた、地底に逃れるための突然変異なのです。しかし、帝国陸軍は式島博士を危険思想の持ち主として捕縛して、博士の頭に鉄仮面を被せた上から「溶接」してしまうのでした。その鉄仮面が「笑い仮面」なのです(この仮面が気持ち悪い!)。

その後の『笑い仮面』の展開は、どうぞ各自お読み頂きたいと思います。なぜ突然、私が『笑い仮面』を思い出したかと言えば、やはり、この「熱波」のせいです。連日連夜、テレビの気象予報士やニュース番組のキャスターが「不要不急の外出はお控え下さい」と訴えるものですから礼拝出席者も激減です。いや、斯く言う私自身も、外出から帰宅した後には、脱水症状を起こしている自分に驚いています。

近年「太陽の光」や「日焼け」は「健康」のイメージから急速に「病気」のイメージへと変わりつつあります。もはや、紫外線がシミやソバカスの原因となると、女性が気にする美容レベルの話ではなく、「皮膚癌」や「白内障」までが憂慮されるようになりました。直接、陽光に当たらなくても、全国各地で、異常高温が原因の熱中症で多数の人々が救急搬送され、中には、そのまま帰らぬ人も出て来ています。「命の危険があるような暑さ」「災害レベルの高温」という言葉も、頻繁に漏れ聞くようになりました。

「アリ人間」ではありませんが、私たちも「シャンバラ」とか「アガルタ」とか「アルザル」とかの地下都市を建設して、いよいよと成れば、地底に移住する時が近付いているのかも知れない等と、真剣に考えてしまいそうです。

3.命の危険

こんな季節に読むべきは、やはり、この「詩編」の聖句でしょう。「主はあなたを見守る方/あなたを覆う陰、あなたの右にいます方。/昼、太陽はあなたを撃つことがなく/夜、月もあなたを撃つことがない」(詩編121編5〜6節)。

英語に「ムーンストラック/moonstruck」という単語があります。直訳すると「月に撃たれた」ですが、そこから「気がふれた、感傷的に成って心を乱れた、茫然とした」という意味に成ります。昔の人は、月の光が狂気をもたらすと信じていたのです。この対語に成っているのが「サンストラック/sunstruck」です。「太陽に撃たれた」、つまり「日射病、熱中症に罹っている」という意味です。

古代イスラエルの人たちにとっては、太陽も月も恐るべき存在であったのです。ところで「サンストラック/熱中症」を精神的に読み直すと、そこには、何かに取り憑かれたように「熱中する、熱狂する」の含みもあるのでは無いかと思います。イスラエルの詩文は「二行一句」に成っているからです。「月の病」があるなら「日の病」もあるのです。心乱れるのも熱中するのも、余り度を越すと病気なのです。

これらの精神的な病気は、宗教や信仰の領域と近接しています。霊の依り代と成るシャーマンも、神の御言葉を告げるイスラエルの預言者も、日常の社会生活から見れば、明らかに異常です。とは言え、ある程度は「ON/OFF」のスイッチがあるはずです。その微妙な閾値を自分でコントロール出来れば良し。あるいは、信頼できる家族や仲間がサポートしてくれても構いません。しかし、放置すると「命の危険がある」ことも忘れてはいけません。主なる神は、そのような躁鬱や熱狂からも、私たちを守って下さるはずです。

牧師 朝日研一朗

【2018年8月の月報より】

posted by 行人坂教会 at 06:00 | ┣会報巻頭言など