2019年04月28日

炎と怒りの時代に

1.神殿と商人

今年の4月15〜16日、パリのノートルダム大聖堂で大規模な火災が発生し、中央の木造部分から大きな炎が上がり、無残に尖塔が焼け落ちました。丁度「受難週」(カトリックでは「聖週間」)の始まった翌日の事件でもあり、符牒めいた何かが感じられました。

古来「受難週」には、それぞれの日に読むべき聖書記事というものが決められています。それによると、日曜日(棕梠の主日)には「エルサレム入城」、月曜日は「宮清め」、火曜日は「終末の預言」、水曜日は「ベタニアでの塗油、ユダの裏切り」、木曜日(洗足木曜日)は「最後の晩餐、ゲツセマネ、捕縛と審問」、金曜日(受難日)は「ピラトの審問、ユダの死、十字架、埋葬」と成っているのです。

大聖堂に火の手が上がった月曜日は、イエスさまが「神殿から商人を追い出す」場面です。「『わたしの家は、すべての国の人の/祈りの家と呼ばれるべきである。』/ところが、あなたたちは/それを強盗の巣にしてしまった」と、「イザヤ書」56章7節を引用しながら、神殿の境内に陣取った両替商や鳩売りの屋台を蹴り飛ばしての大暴れです。

ノートルダム大聖堂は、年間1300万人もの観光客が訪れる、パリ屈指の名所です。大聖堂再建のための寄付の呼び掛けが始まるや、1週間足らずで、8億5千万ユーロ(約1070億円)もの寄付金が集まりました(4月22日現在)。ルイ・ヴィトンやディオール等を傘下に置くLVMHグループ、グッチ等を有するケリング社、石油会社トタル、保険会社アクサ、BNPパリバ(銀行)のオーナー株主、大富豪が巨額の寄付をしたようです。更には、米国のIT大手アップル社、ディズニー等も協力を申し出ているそうです。

これに対して、国内から不協和音が響いています。貧困問題には何の関心も示さない大富豪たちが、僅か一晩で何億ユーロもの巨額の資金を拠出する事を見せ付けたと言うのです。富の不平等な分配に抗議し、低所得者層の困窮を訴える「黄色いベスト/ジレ・ジョーヌ」の運動の記憶も生々しい中、時を置かずに、こういう現実が露骨に表面化すると、確かに何とも言えない複雑な気持ちに成ります。

2.教会と爆弾

大聖堂は翌朝まで燃え続けました。「受難週」の火曜日は、イエスさまの語られた譬え話、律法学者やファリサイ派との論争、終末の預言を読む日です。

特に「マタイによる福音書」23〜24章には、「小黙示録」と呼ばれるような終末預言が纏められています。「エルサレムのために嘆く」(23章37節〜39節)、「神殿の崩壊を予告する」(24章1〜2節)、「終末の徴」(3〜14節)、「大きな苦難を予告する」(15〜28節)、「人の子が来る」(29〜31節)、「いちじくの木の教え」(32〜35節)、「目を覚ましていなさい」(36〜44節)と続き、「これでもか!」と言うくらいです。

「民は民に、国は国に敵対して立ち上がり、方々に飢饉や地震が起こる。しかし、これらはすべて産みの苦しみの始まりである。そのとき、あなたがたは苦しみを受け、殺される。また、わたしの名のために、あなたがたはあらゆる民に憎まれる。そのとき、多くの人がつまずき、互いに裏切り、憎み合うようになる。偽預言者も大勢現れ、多くの人を惑わす。不法がはびこるので、多くの人の愛が冷える」(24章7〜12節)。

すると、4月21日、イースターの朝、スリランカで連続爆破テロ事件が発生してしまいました。3百人以上の死者、4百人以上の負傷者を出しました。爆弾テロの標的と成ったのは、外国人の利用が多い高級ホテルと共に、3つの教会でした。首都コロンボの「聖アンソニー教会」、その北にあるニゴンボの「聖セバスティアン教会」、この西海岸の2つはローマ・カトリック教会でした。東海岸、バッティカロアの「ザイオン教会」は、プロテスタント福音派「ライトハウス」の流れを汲む教会のようです。

2016年12月、カイロの聖ペトロ教会(コプト教会の司教座の置かれた聖マルコ大聖堂に隣接する)では、自爆テロにより25人が死亡、49人が負傷しています。翌2017年4月9日には、タンタの聖ゲオルギウス教会、アレクサンドリアの聖マルコ教会において、45人が死亡、130人以上が負傷しています。イースター1週前の「棕梠の主日」(東方教会では「聖枝祭」)を狙ったテロでした。いずれも「ISIL/アイシル/イスラム国」系の組織による犯行だったようで、決行時期や方法を見ると、今回の事件の雛形のように思われます。

3.不安と覚悟

ノートルダム大聖堂の火災、スリランカの教会に対する自爆テロ、この2つの出来事には直接の関係はありません。けれども、敵対や憎しみや不法の連鎖、宗教施設を利用して商売をする者、宗教対立を利用して敵愾心を煽る偽預言者、愛と寛容の消滅などという、極めて現代的な要素が共通して両者に混在しているように思うのです。

「イザヤ書」66章15節に「見よ、主は火と共に来られる。/主の戦車はつむじ風のように来る。/怒りと共に憤りを/叱咤と共に火と炎を送られる」という預言があります。ドナルド・トランプ大統領の暴露本、『炎と怒り/トランプ政権の内幕』(Fire and Fury: Inside the Trump White House)の題名の出典です。書名の「炎と怒り」の「怒り」は、トランプの制御不能な情緒不安定ぶりを、「炎」は米国の強大な軍事力を表現しています。強大な軍事力(核兵器や細菌兵器を含む)を動かすことの出来る超大国のトップが、歴史上かつて無い程に、情緒不安定で独善的な人物であるという事実は、それ自体が一種のホラーです。

今日、経済や政治、軍事や宗教、テクノロジーや社会制度など、私たちの周りを見ても、不安定な要因が増しているように思います。しかし、こんな邪な時代であれば尚の事、私たちは、覚悟と諦念をもって、キリストの愛を表わして行かなくてはなりません。

牧師 朝日研一朗

【2019年5月の月報より】

posted by 行人坂教会 at 06:00 | ┣会報巻頭言など