2019年11月18日

旭日亭菜単(続き)その54

  • 「ヤマトタケル」第1巻(安彦良和作、中公文庫)
    今年、NHKが放映した『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN/前夜 赤い彗星』(OVAを再編集してテレビシリーズ化したもの)に心震わせ、『こころの時代』の「わかり合えないをわかりたい/安彦良和」を観てしまったせいで、改めて彼の作品に触れないではいられなくなりました。宮崎の教会にいた頃、『ナムジ』『神武』全巻を読んでいましたから、スゥーッと入って行けました。作者が参考にしている原田常治『古代日本正史』も、いずれ読んでみたいものです。
  • 「やがて満ちてくる光の」(梨木香歩著、新潮社)
    このエッセイ集の中盤に収められている、河田桟(その後、この人は与那国島で馬飼いに成られたとか)によるインタビュー(「生まれいずる、未知の物語」)には舌を巻きます。『沼地のある森を抜けて』の創作を中心に話題が展開するのですが、作家の聞き手の役割を演じるためには、ここまでの鋭いアンテナが必要なのかと感心してしまいました。同作については、恥ずかしながら、私などは「糠漬け」の話というくらいしか記憶がありません。「家の渡り」には、名前が伏せられていますが、戦前からのカール・バルトの研究者、宮本武之助教授のお宅の佇まいが紹介され、併せて、著者の学生時代の思い出として、新約聖書学者の橋本滋教授との交流も描かれています。いずれも帰天されて久しいので、もう名前を出しても良いでしょう。
  • 「ヒストリエ」第11巻(岩明均作、講談社)
    長男も楽しみにしている作品。長男は「また別の話に成っちゃって話が前に進まない」と漏らしていましたが、それは違います。アレクサンドロス王子に瓜二つのパウサニアスが新たに登場して、オリュンピアス王妃(アレクサンドロスの母親)による陰謀が描かれますが、これこそは、フィリポス王暗殺(いよいよか…)の伏線に成っているはずなのです。
  • 「教養としてのミイラ」(ミイラ学プロジェクト編著、KKベストセラーズ)
    二男が未だ小学校1年生だった頃、急にミイラに関心を持って、ミイラの本を買って上げたことを思い出しました。夏休みの自由研究のために、犬か猫を捕まえて来て、二人でミイラ作りをしようと考えたこともありましたが、ナトロン(ソーダ石)を使って水分を取り除くだけで70日もかかることが分かり、(妻にも猛反対され)泣く泣く断念したものです。この本はエジプト、中南米、ヨーロッパ、アジア、オセアニア、日本と世界のミイラが美しいカラー写真で紹介されています。最近の私は、木の実だけを食べて入定する湯殿山の即身仏に、とても心魅かれるものです。
  • 「ゴールデンカムイ」第19巻(野田サトル作、集英社)
    玉石混交のシリーズですが、さすがに今回はリキ入っていました。遂にアシリパ一行に追い付く杉元たち、その接近の過程に織り込まれる、ソフィアの回想(ウイルク、キロランケと過ごした過去)…。谷垣や鯉登とキロランケとの死闘、アシリパと尾形との対決、これこそが「ジャンプ」の真骨頂です(「ヤング」だけど…)。
  • 「アラマタヒロシの妖怪にされちゃったモノ事典」(荒俣宏著、秀和システム)
    水木しげる翁の御蔭で、幼い時から人間よりも妖怪変化に愛情を感じるように成ってしまった私は、キリスト教の牧師をしていながらも、未だに廃物に話し掛けたり(付喪神)、こちらを振り向いた野良猫に話し掛けたり(猫又)、おかしな事をしてしまいます。この本はティーン向けなのですが、編集の面白さに釣られて買ってしまいました。ところで、エボシガイに寄生されたセグロウミヘビは、その昔「宇賀(ウガ)」と呼ばれ、「瑞獣」とされていました。その「宇賀」の項を読みながら、大学時代、英文科に「宇我神魔子」という凄い名前の少女がいたことを思い出しました。「宇賀神(うがじん)」は、彼方から海の幸を携えて来るマレビトですから、きっと、彼女は外来神の末裔だったのでしょう。
  • 「実話怪談/でる場所」(川奈まり子著、河出文庫)
    2000年代初頭、著者は『女医・川奈まり子/タブーSEX』(別題『川奈まり子の愛の病棟日誌』)『川奈まり子/桜貝の甘い水』『川奈まり子/昼下がりは別の顔』他、多数のピンク映画、AVに主演していました(その名を冠した題名からも、当時、彼女には固定ファンが付いていたことが分かります)。それが、今では「実話怪談ライター」として有名に成ってしまいました。基本的にAVの撮影現場には、廃屋、廃業後の施設の類いが多く、霊感の強い彼女は、当時から心霊現象に出遭うことが多かったようです。私としては「蔵と白覆面」(目黒川近く上大崎の某旧家)と「瓶詰めの胎児」(六本木ヒルズ)が最も興味深かったです。前者は御近所の故。後者は、道教の邪法「養小鬼(ヤンシャオグイ)」(1980年の香港映画『養鬼/悪魔の胎児』で、その存在を知りました)との関連からです。
  • 「文豪たちの怪談ライブ」(東雅夫編著、ちくま文庫)
    明治末期から昭和初期に、文人や画人、新聞記者や出版関係者、果ては素人の変わり者、風流人まで集まって、繰り返し開催された「百物語」「怪談会」の様子をダイジェストに紹介し、尚且つ、その変遷を綴った好著。尾崎紅葉、徳田秋聲、三遊亭円朝、柳田國男、泉鏡花、喜多村緑郎、小山内薫、伊藤晴雨、伊東深水、芥川龍之介…等、名立たる面々による怪談が満喫できます。但し、創作の類いではなく、基本、実体験談とその再話です。ですから、ホラーを期待すると肩透かしを喰うでしょう。それはともかく、泉鏡花の存在感の大きさは際立っています。曰く「人と人とが相差し向いで話をしている僅三尺の空間(すきま)にさえ、人間界以外の別世界がある。その別世界がお化けの世界かも知れない」。
posted by 行人坂教会 at 09:33 | 牧師の書斎から