2020年11月29日

黄金の子牛を求めて

1.内なる悪

11月に入ってから、盛んに「新型コロナウイルスのワクチン開発の成功」というニュースが飛び交っています。

米国製薬大手の「ファイザー/Pfizer」とドイツのバイオテクノロジー企業「ビオンテック(もしくはバイオエヌテック)/BioNTech」が共同開発しているワクチンでは、治験の結果、90%以上の有効性が得られたと言います。それに続いて、米国の新興バイオテクノロジー企業「モデルナ/Moderna」も同様の発表をしました。更に、英国の製薬大手「アストラゼネカ/AstraZeneca」がオックスフォード大学と共同開発したワクチンも重症化を防ぐという臨床試験データを発表しました。

その発表の度に、株価が上昇するのを見ていると、ワクチン開発競争も人命を救うためと言うよりは金儲けのためという経済の基本原理を、つくづく思わされます。そもそも「バイオテクノロジー企業」と言えば、私など、ゲームや映画の『バイオハザード/Bio Hazard』に登場する「アンブレラ社」を思い出す訳です。

「バイオハザード」とは、細菌やウイルス等の有害物質が、研究室や病院から外部に漏れることで引き起こされる「生物災害」を意味します。『バイオハザード』では、アンブレラ社の研究施設で開発中のウイルス兵器「T-ウイルス」が施設内で漏れて、「バイオハザード」が発生、感染者たちは「アンデッド/ゾンビ」と変わり果て、特殊部隊の隊員たちに襲い掛かって来るのです。「バイオハザード」下の「サバイバル」がテーマです。

『バイオハザード』は、1996年に日本のゲーム会社「カプコン/CAPCOM」がクリエートした「PlayStation/プレステ」用のゲームソフト、及び、その実写映画化ですが、海外でのタイトルは「Resident Evil/内在する悪」でした。「生物災害」も単なる事故ではなく、企業側が仕組んだ実験であり、特殊部隊の派遣も、災害の収束を期してのものではなく、生物化学兵器の実戦データを得るためのものだったという展開です。

2.ワクチン

勿論「バイテク企業」と聞くだけで「バイオハザード」を連想してしまうのは、私の極端に歪んだ精神が作り上げた妄想に過ぎません。更に聖書の知識を加えて、妄想を加速するのが、キリスト教の牧師のヤバイところです。

「ワクチン」の語源は、ラテン語の「vaccīna/ウァッキーナ」です。「種痘疹、牛痘疹」という意味です。皆さんの右腕には「種痘」の傷跡がありますか。1976年(昭和51年)までは、天然痘の予防接種は義務化されていました。やがて、天然痘の国内発症が無くなり、1975年(昭和50年)以後に生まれた人には、種痘の跡はありません。もう1つは、結核の予防接種ワクチン「BCG」です。こちらは左右どちらでも「上腕」なら良かったみたいで、右の人も左の人もいます。

天然痘の予防接種を行なった功績者と言えば、18世紀英国の医師にして科学者のエドワード・ジェンナーです。彼はウイルスに感染した雌牛から「牛痘」を取り出して、人間に接種したところが、ウイルスに対する免疫を獲得できたという話です。それで、これが「ワクシニア・ウイルス/Vaccinia virus」と呼ばれるように成りました。「ワクチン」という語の始まりです。ラテン語の「雌牛/vacca/ウァッカ」が起源なのです。

「雌牛は我々に乳を、鶏は卵を与える/vaccae nōbīs lāc, gallīnae ōvā praebent」というラテン語の成句がありますが、雌牛は乳のみならず、天然痘のワクチンも与えてくれたのです。そう言えば、インフルエンザのワクチンも鶏の卵を使って培養されていますね。

3.物質主義

「彼らは早くも我が彼等に命ぜし道を離れ、己(おのれ)のために犢(こうし)を鑄(い)なしてそれを拝み、其(それ)に犠牲(いけにへ)を獻(ささ)げて言ふ、イスラエルよ是(これ)は汝をエジプトの地より導きのぼりし汝の神なりと」(「出エジプト記」32章8節/文語訳)という聖句を思い出します(句点は、読み易いように私が入れました)。

有名な「黄金の子牛/Golden calf」の場面です。モーセがシナイ山で、主なる神から律法を受け取っている間に、その山麓に宿営するイスラエルの民は不安の余り、エジプト人から「行き掛けの駄賃」とばかり頂戴した金を鋳造して、偶像を作り出し、「これがエジプトから脱出させてくれた神様だあ」と言って拝んだという話です。

ヘブライ語の「ラーヘム」、即ち「己(おのれ)のために」(「日本聖書協会訳」は「自分のために」、「新改訳」は「自分たちのために」)という所が、偶像礼拝の本質を暴露しています(残念ながら「新共同訳」も「協会共同訳」も抜けています)。

アロンとイスラエルの民が拝んだ「黄金の子牛」は、エジプト神話の天空の太母神「ハトホル/Hathor」が起源と思われます。彼女は「天界の雌牛」として崇拝され、その乳房から天の川が生まれ、毎日、太陽を生んでいると信じられていました。細長い雌牛の角を生やし、その両角の中に赤い太陽の円盤を載せた姿で描かれています。

ワクチン開発が成功し、待ち望む人たちに供給され、ウイルスの感染を防ぎ、罹患者の重症化を防ぐとしたら、素晴らしいことです。しかし、それは何のためでしょうか。またしても、以前と同じような大量生産大量消費の世界に、何の反省もなく戻って、「黄金の子牛」に仕えるだけのためだとしたら、それは余りにも虚しいことのように思うのです。

旧約聖書(古典ヘブライ語)では「黄金の子牛」は「エゲレー・ザーハーブ」と表現されていますが、現代ヘブライ語で「黄金の子牛/エーゲル・ハ・ザーハーブ」と言ったら「金銭崇拝、物質主義」を意味します。

牧師 朝日研一朗

【2020年12月の月報より】

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