2021年02月28日

本日モ誠ニ晴天也

1.青天と霹靂

何と暖かな陽射しでしょうか。物干しの洗濯物も心地良さそうに、穏やかな風に揺られています。何年か前に妻が庭に植えた薔薇が、遠慮がちに小さな赤い蕾を膨らませています。これが2月も半ば、冬の只中であることが信じられません。

テレビの天気予報では、北海道沿岸部では「今日の夜から明日に掛けて、数年に一度の猛吹雪に見舞われるため、出来るだけ外出を控えるように」と呼び掛けていました。ほんの十数年前まで、私も北海道で暮らしていたというのに、あたかも異世界の現象のように思われます。しかしながら、私が未だに、こうして東京の温暖な冬に違和感を抱いてしまうのは、どうやら、単なる個人的な問題では無いようなのです。

昔から東京に暮らしている人たちからも、この数年の暖冬に戸惑っているという声を聞きます。「春日和(はるびより)」という語がありますが、本来は4月の季語です(因みに「小春日和」は10月に使うべき語です。念のため…)。「2月の春日和」等、むしろ、地球温暖化による異常気象ではないかと心配の種です。

最近では、もう殆ど耳にしませんが、旧暦の睦月(正月)、如月(二月)、弥生(三月)を「三春(みはる、さんしゅん)」と言ったそうです。但し、ここに言う「春」とは「新年」のことです。「新春初売りセール」が「正月の特売」であるのと同じ道理です。しかも、旧暦と新暦とでは一月以上のズレが生じますので、私がこの文章を書いている2月16日は、旧暦の1月5日に当たります。ともかく、幾ら温暖な東京であっても、こんなに温暖で良いはずは無いのです。心地悪さに違和感を抱くのは当たり前のことですが、「2月の春日和」の心地良さに違和感を抱くこともまた、感受性のアンテナでは無いでしょうか。

2.義士に烈士

東京(江戸)で勃発した、歴史上の「三大事件」というのを御存知でしょうか。1703年1月30日(元禄15年12月14日)の「赤穂浪士討ち入り」、1860年3月24日(安政7年3月3日)の「桜田門外の変」、そして1936年2月26日の「二・二六事件」です。いずれも芝居や映画、ドラマの題材に採り上げられる、日本人の心象に深く関わる歴史的大事件です。そして、その3つ共に「春の雪景色」の中で織り成されているのです。どうやら、その辺りに、何か私たちの美意識を擽(くすぐ)るものがあるようです。

但し、その内実たるや、共通して暗殺(テロリズム)であるということに慄然とします。白い雪に飛び散る赤い血、まさに「日の丸」の旗ではありませんか。我が国には、政府要人を暗殺するテロリストを、忠君報国に殉じた烈士徇名と称える気風があるのです。

大石内蔵助(くらのすけ)の妻りくの実家が同郷、但馬国豊岡藩(家老の京極家)です。そんな地元贔屓の親近感も手伝って、東京に赴任して最初に訪ねた寺は(「赤穂義士」の墓地がある)泉岳寺でした。要するに「忠臣蔵」が好きな私なのですが、冷静に考えてみると、「義士」なんぞと言っても、結局はテロリストなのです。しかし、昨今の無差別テロ等と違って、一般人に危害を加えていない点、潔く自首している点において評価されるのでしょう。

吉良屋敷に討ち入りを果たした旧赤穂藩の浪人は「赤穂義士」と呼ばれています。それと同じように「桜田門外の変」で、大老井伊直弼の駕籠(彦根藩の行列)に斬り込んだ水戸藩や薩摩藩の脱藩浪人も「桜田烈士」と呼ばれます。

これは日本だけの事情では無いようで、韓国では、1909年にハルピン駅構内で、伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュンクン)が「愛国烈士」「独立烈士」として、今も尊敬を集めています。平生の安重根は、熱心なカトリック信徒で、「義士」と呼ばれるに相応しい立派な人物だったそうです。暗殺事件後、投獄されていた旅順監獄では、日本人の看守、典獄(刑務所長)、弁護士なども彼の人品から深い感化を受けたと言われています。

ドイツの神学者にして、ルーテル派の牧師であった、ディートリヒ・ボンヘッファーが「ヒトラー暗殺計画」を進めた「黒いオーケストラ/Schwarze Kapelle」のメンバーだったことも今や、よく知られています。東洋風に言えば、彼もまた「烈士、義士」なのでしょう。

3.春を尋ねて

『啄木鳥探偵處(きつつきたんていどころ)』という、伊井圭のミステリ小説があります(創元推理文庫)。「啄木鳥」の名からも察せられる如く、歌人の石川啄木が「ホームズ役」、金田一京助が「ワトスン役」を務めます。横溝正史の創作した探偵「金田一耕助」の名前が、この言語学者の名前から採られていることを考え合わせると、愉快な気持ちに成ります(横溝は当初、「菊田一○○」という名前を考えていたそうです)。

昨年、アニメ化されたのですが、二人ともBLマンガ風の美青年にされていて、笑いが止まりませんでした(これじゃあ、朝霧カフカ+春河35の『文豪ストレイドッグス』と変わらない)。しかも、アニメ版では、野村胡堂(あらえびす)、平井太郎(江戸川乱歩)、吉井勇、萩原朔太郎、若山牧水、芥川龍之助などの面々も登場して、これが悉くイケメンなのです。唯一史実に近いのは、啄木の「クズ男」ぶりだけという有様です。

昨年の「緊急事態宣言」中に、深夜枠で放映されていたのですが、スウィングジャズ風のOP主題歌「本日モ誠ニ晴天也」が、私の頭から離れなくなってしまい、「宣言」明けにカラオケに行ったら「必ず歌うぞ!」と決心したのでした。

確かに「本日モ誠ニ晴天也」です。とは言え、こんなに晴れやかな日であっても、心晴れぬ日々が続きます。「盡日尋春不見春/尽日(じんじつ)、春を尋ねて、春を見ず」(戴益)とは、今まさしく是です。「一日中、春を探し求めたのに、春は見つからなかった」という意味です。しかしながら、世の「春」は思わぬところに生まれているのです。

牧師 朝日研一朗

【2021年3月の月報より】

posted by 行人坂教会 at 06:00 | ┣会報巻頭言など