2012年10月16日

幽径耽読 Book Illumination

  • 「ディミター」(ウィリアム・ピーター・ブラッディ著、白石朗訳、創元推理文庫)
    モザイクのように、断片が組み合わされ、最後に1枚の聖画が姿を現わすような印象を与える作品です。前半のアルバニア編がニコス・カザンザキスの諸作や遠藤周作の『沈黙』を思い出させます。『エクソシスト』の原作者、ブラッディが偶然、フリードキン監督のオフィスで目に留めた新聞記事から生まれた小説なのだそうです。
  • 「カオス・シチリア物語/ピランデッロ短編集」(ルイジ・ピランデッロ著、白崎容子・尾河直哉訳、白水社)
    ピランデッロの作品には「諦念」があります。例えば、『母との対話』の中には、「死者の目を通して、もう一度、世界を見て御覧」というような、不思議な助言があります。因みに、『誘拐』は、3人の若者に誘拐された老人が監禁状態のままで、若者たちと家族のような関係を育む、岡本喜八の映画『大誘拐』そっくりの話です。
  • 「交響詩篇エウレカセブン」全6巻(BONES原作、片岡人生、近藤一馬画、角川書店)
    テレビアニメ放映時より、髪留めをしておでこを一杯に出したエウレカとアネモネのデッサン(特に、エウレカのコスチューム)が好きで、通しで読んでみたいと思っていました。1巻目はトラパーの波に乗り切れませんでしたが、2巻目で胸キュン、3巻目で目頭が熱くなりました。ジュヴナイル版『惑星ソラリス』です。
  • 「図説・死因百科」(マイケル・ラルゴ著、橘明美監訳、紀伊國屋書店)
    山田風太郎の『人間臨終図巻』は有名人の死に方を享年順に解説した名著ですが、こちらは死因別に扱っています。題名通り著者の主たる関心事は「死因」にあります。従って、結果的に著名でない人々も数多く採り上げられていて、庶民の生き死にについても一様ではないと感慨深く読みました。巻末付録の「墓碑銘」は傑作です。
  • 「しどろもどろ/映画監督岡本喜八対談集」(岡本喜八談、ちくま文庫)
    『肉弾』製作の資金集めのために、私立の「学校債」を参考にした等という、お連れ合いの岡本みね子の話は実感があって泣けます。私たちの業界もビンボーなので、会堂建築の時には「教会債」を買って貰って、借金を返済して行くことが多いですから。
  • 「虎よ、虎よ」(アルフレッド・ベスター著、ハヤカワ文庫)
    SFバイオレンス版『不思議の国のアリス』。作者自身は、デュマ・ペールの『モンテ・クリスト伯』を下敷きにしたようですが、ファンタジーとして読むことも出来るような気がします。実際、クライマックスの文字遊びは「アリス」です。核攻撃を受けた瞬間に「ジョウント/テレポート」する等、相変わらず、欧米人の核意識は楽天的ですね。
  • 「ロマンポルノの時代」(寺脇研著、光文社新書)
    映画作品そのものへの愛情溢れる批評もさることながら、映画制作に携わったスタッフとキャストに向けられた細やかな目配りに驚きました。第12章「ロマンポルノの男優」は圧巻です。多様なスタッフとキャストの組み合わせ(にっかつの製作システム)から生まれる「新鮮な化学反応」が数々の名作を生み出したのですね。
  • 「世界の特殊部隊/戦術・歴史・戦略・武器」(マイク・ライアン他著、小林朋則訳、原書房)
    イスラエルの特殊部隊がテルアビブで「民間人を避難させてから空爆を行なった」から人道的であるかのような記述があり、その事実性も含めて、これには違和感があります。専ら体制側からの視点です。それよりも、作戦が失敗した事例が抜群に面白いです。1985年の航空機乗っ取り事件で、エジプトの特殊部隊(第777任務部隊)の救出作戦が失敗、人質57名を死亡させる結果に終わります。凄すぎるでしょう。
  • 「牛乳屋テヴィエ」(ショレム・アレイヘム著、西成彦訳、岩波文庫)
    言わずと知れた『屋根の上のバイオリン弾き』の原作。時代背景が日露戦争とあって、日本への言及も意外に多く、『坂の上の雲』にも登場する米国のユダヤ人銀行家、ジェイコブ・シフのことを思い出しました。映画だと「三女ハヴァ」の話(異教徒との恋愛結婚)で終わりですが、四女、五女の話もあったのでした。テヴィエ、苦労してます。
posted by 行人坂教会 at 09:02 | 牧師の書斎から