2012年10月16日

幽径耽読 Book Illuminationその3

  • 「アド・アストラ」第2巻(カガノ・ミハチ作、集英社)
    第1巻を読んだ時には、露骨に諸星大二郎みたいな絵だったのですが、アシが付くように成ったのか、第2巻は中和されています。ポエニ戦役を扱ったマンガには、先に岩明均の『ヘウレーカ』という傑作があります(イタリア映画『シラクサ攻防戦』が基礎)。そこで「per ardua ad astra/艱難を経て、星を目指せ」とエールを送ります。
  • 「シュトヘル」第1〜6巻(伊藤悠作、小学館)
    歴史伝奇物として抜群に面白いです。西夏文字を刻んだ玉板を、モンゴル軍の追撃をかわしながら、南宋まで運ぼうという話。高校生が前世にログインするという(ゲーム等の)スタイルを採った導入が、今後どのように展開するかがミソでしょう。大ハーンの少年時代の顔が高橋葉介の『夢幻紳士』です。シュトヘル≒スドーの顔を見て、柴田昌弘の『紅い牙/狼少女ラン』を思い出しました。個人的には、とても嬉しいです。
  • 「スキャンダルの世界史」(海野弘著、文春文庫)
    寡聞にして、19世紀アメリカのカルト「オナイダ共同体」は知りませんでした。イェール大学神学部出身の提唱者が「性の共産主義によるユートピア」を目指したのです。歴史的に見ると、宗教には時折、突然に、このような逸脱が生じます。入会した人には、気の毒としか言いようがありませんが…。
  • 「ハカイジュウ」第1〜7巻(本田真吾作、秋田書店)
    長男に借りて読みました。『漂流教室』+『寄生獣』の味わい。「ヘドラ」「レギオン」「グエムル」「エイリアン」「ザ・グリード」に、ダリの絵を思わせる所もあります。人間の側も武重先生とか村内とか立川の特殊部隊隊員とか特殊生物系が登場。その真骨頂は、「物体X」みたいに寄生された一条君が関西弁で泣きながら襲撃して来る場面でしょう。
  • 「お菓子の髑髏/ブラッドベリ初期ミステリ短篇集」(レイ・ブラッドベリ著、仁賀克雄訳、ちくま文庫)
    不思議なことに、読み終わって数日後に、ブラッドベリの訃報に接しました。ブラッドベリは、多分、少年時代に、私が最初に好きになったSF作家でした。きっと、今頃は、天国で「たんぽぽのお酒」を飲んでいることでしょう。本作品集では、血友病患者が主人公の「用心深い男の死」が心に引っ掛かっています。
  • 「知らなかった!衝撃のアニメ雑学」(日本博識研究所著、宝島社)
    そう言えば、先日、宮崎駿の『名探偵ホームズ』を改めて見たら、イタリアRAI側のプロデューサーの名前が「マルコ・パゴット」(『紅の豚』)でした。
  • 「The Indifference Engine」(伊藤計劃著、ハヤカワ文庫)
    やはり、ルアンダ内戦をモデルにした表題作が圧巻。一種の『時計じかけのオレンジ』なのですが、内戦終結後の「平和」の虚構を痛々しく表現しています。サイバーパンク風のジェームズ・ボンドもの(『女王陛下の所有物』)では、カンタベリー大司教が「ヨシュア記」2章(文語訳)を読みます。
  • 「ばら物語」Vol.1(滝沢聖峰作、大日本絵画)
    滝沢聖峰と言えば、第二次大戦のパイロットものが最高なのです。これは珍しく、2人のヒロインを軸にして描く、近世イタリアを舞台にした戦争ものです。当時の傭兵たちの生活と契約、武具や砲術の考証は面白いのですが、緻密なデッサンで有名な滝沢にしては、スイス長槍部隊の絵が何だか雑な気がして…。
  • 「映画は父を殺すためにある/通過儀礼という見方」(島田裕巳著、ちくま文庫)
    オランダ人の文化人類学者、ファン・ヘネップの「イニシエーション」理論から幾つかの名作を解読します。マニア向けの作品は外して、万人の知っている作品だけを「材料」にして分析していくところに、著者の姿勢が出ています。個人的には、解説の町山智浩(映画業界の人)の「ランボー」=キリスト説が一番笑えました。
  • 「世界軍歌全集」(辻田真佐憲著、社会評論者)
    若い人がこんな凄い本を纏めたことに絶句。捲っていて、讃美歌「聖地エルサレム」は勿論、労働歌「ワルシャワ労働歌」「インターナショナル」、ドイツの軍歌「パンツァーリート」等、自分の歌える歌が数多くあることが分かって、また絶句。YouTubeで曲を聴けば、もっと知っている歌が増えるかも知れません。
  • 「時間の種」(ジョン・ウィンダム著、大西尹明訳、創元SF文庫)
    『トリフィド時代』で有名なウィンダムの短編集です。「強いものだけ生き残る」を読んでいて、強烈な既視感を抱きました。それもそのはず、子供の頃、この話、算盤教室に置いてあったマンガ雑誌で読んでいたのです。さて、作者は誰だろう。
posted by 行人坂教会 at 16:01 | 牧師の書斎から