2013年02月16日

幽径耽読 Book Illuminationその5

  • 「米軍が恐れた「卑怯な日本軍」(一ノ瀬俊也著、文藝春秋)
    米陸軍の対日戦マニュアル「The Punch below the Belt」から説き起こし、満州事変、日中戦争、張鼓峰事件、ノモンハン事件の「戦訓」も分析。圧倒的な火力を誇る敵軍に対しては、誰しも「卑怯な戦法」を採らざるを得ないのです。日本軍は、そのゲリラ戦においても中途半端だったことが分かります。「無策のツケは、最終的に現場が自らの創意工夫で支払わされることになった」。「上層部の無策を現場が頑張って解決しようとしてしまうという、今でも続く日本社会の構図」。これ、米軍戦車に対抗するのが、肉攻による地雷という話です。
  • 「失脚/巫女の死/デュレンマット傑作集」(フリードリヒ・デュレンマット著、増本浩子訳、光文社古典新訳文庫)
    『故障』が抜群に面白い。料理の描写が美味しい。『失脚』は、スターリンからフルシチョフに権力交代した時はこんな感じだったのかと思わせます。本の栞に登場人物紹介があって助かりました。映画監督のベルトラン・タヴェルニエが京都で講演した時に、サインを貰ったことがあります。タヴェルニエの『判事と暗殺者』はデュレンマットの原作だったのですね。
  • 「ゾティーク幻妖怪異譚」(クラーク・アシュトン・スミス著、大瀧啓裕訳、創元推理文庫)
    洞窟を抜けると異世界に。その庭園の果実を食べると、失われた王族の人生を辿る。『クセートゥラ』は『千と千尋』です。人生の歩みが文字化される『最後の象形文字』、人間の屍に魔界の植物を接ぎ木する『アドムファの庭園』が大好き。首が鈴生る椰子、耳の咲く蔓、乳房の実るサボテン、花弁の中で動く目…。これはIPS細胞か、はたまた、天才会田誠の「愛ちゃん盆栽」か。
  • 「せどり男爵数奇譚」(梶山季之著、ちくま文庫)
    うちの教会員に、梶山の事務所に勤めていたKさんがいます。それを知って以来、身近に感じるようになりました。最初は「男爵」然としていた笠井氏が、中盤から「…でげす」とか「…でさあ」と、お下品な喋り方になります(微妙なキャラ変更)。永井荷風のイメージを推し進めたということでしょうか。梶山お得意の「京城もの」、本格推理(松本清張の『黒い福音』とカブる)みたいな「キリシタン版」は、さすが名手と思わせます。巻末の「人皮装『姦淫聖書』」に至っては、サド侯爵も乱入して、悪ノリが過ぎています。でも、私なら刺青を入れた人皮にするな。Kさんの家には、梶山の描いたキリストの絵があるのだそうです。
  • 「英語で読む罪と罰の聖書」(石黒マリーローズ著、コスモピア)
    高校時代に購読していた「スクリーン・イングリッシュ」で、著者の文章を読んだことがあり、懐かしくて買いました。「創世記」のエピソードに、かなりの分量が割かれています。犯罪、セックス、悪魔、地獄という皆の大好きなテーマで勉強しましょう。「煉獄」と「アブラハムの懐/the bosom of Abraham」の関係、これは使えるネタです。
  • 「奇形建築物世界遺産100」(珍建築研究所編、扶桑社)
    樫の木の中に造られた礼拝堂(仏)、先住民プエブロ族の伝統を採り入れた土壁のカトリック教会(米)が、職業的に参考になりました。個人的な趣味としては、シュヴァルの理想宮(仏)、湖畔の岩の間に建つ家(仏)、ストーンハウス(葡)、仏教テーマパーク(ラオス)に行ってみたい。要するに、大企業や行政が巨費を投じて作った「箱物」が嫌いなのです。改めて納得しました。
  • 「HUNTER×HUNTER/ハンター×ハンター」第0巻「クラピカ追憶編」(冨樫義博作、集英社)
    二男が映画『緋色の幻影』を観に行って貰って来ました。丁寧な画線、完成した構図、短けれども素晴らしい物語…。最新刊32巻「完敗」(題名通り)の手抜き作業と比べるべくもありません。あれは「間奏曲」としても許容外です。
  • 「ブラウン神父の無心」(ギルバート・キース・チェスタトン著、南條竹則・坂本あおい訳、ちくま文庫)
    それにしても、ブラウン神父の口から出るスコットランド長老派に対する揶揄は凄まじい限り。ピューリタンに対するイヤミもありますが、スコットランド人は異教徒扱い、カルヴァン派が本当に嫌いだったのですね。まあ、幾分その気持ちは理解できます。「他のすべての人間の聖書も読むのでなければ、自分の聖書を読んだって無益だ」。全くその通りです、神父さま。
  • 「キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/超大国の悪夢と夢」(町田智浩著、文春文庫)
    アーミッシュの「ラムシュプリンガ」、デヴィッド・ロシュの「信心80%の教会」等、結構、キリスト教ネタがあり、勉強になります。これを読んでいた時に、丁度、コネティカットの小学校の虐殺事件が起こりました。あの国が経済、政治、文化、軍事、宗教などによって、世界を牽引しているかと思うと呆然とします。いずれ行き着く先は破滅かと…。
  • 「18の罪/現代ミステリ傑作選」(ローレンス・ブロック他著、田口俊樹他訳、ヴィレッジブックス)
    昔、虫明亜呂無が引用した文章に接して以来、ジョイス・キャロル・オーツの作品を読みたいと思っていました。勿論、オーツの『酷暑のバレンタイン』は巻末を飾るに相応しい傑作。札幌時代、私の後輩の牧師に、これと似た状態の死体を発見する羽目になった人がいます。いずれ劣らぬ傑作揃いのアンソロジーです。
  • 「汚辱の世界史」(ホルへ・ルイス・ボルヘス著、中村健二訳、岩波文庫)
    学生時代に『悪党列伝』(晶文社)として出版された本書を読んでいました。30年を経て、改めて読んでみると、ボルヘス独特のネジレが心に沁みるのです。巻頭の、ラス・カサスが「インディオスの破壊」について訴えなければ、黒人奴隷も存在せず、ハバネラもブードゥー教も生まれなかったという件などは典型です。煉獄に行ったメランヒトンの話(まるで幻想文学の筆致ですが)、本当にスウェーデンボルク自身がこんな風に書いていたとは思えません。
  • 「シュトヘル」第7巻(伊藤悠作、小学館)
    スドーが消えてシュトヘルが還って来た!! ジルグス戦で手負いのハラバルと完全復活を果たしたシュトヘルとの死闘は、まさに『キングコング対ゴジラ』の迫力でした。当然の引き分けの後に、新キャラ登場。これで繋いで行きます。やはり、西夏文字は海を渡って、日本に来るのですかね。
posted by 行人坂教会 at 16:10 | 牧師の書斎から