2012年10月16日

幽径耽読 Book Illuminationその2

  • 「月は無慈悲な夜の女王」(ロバート・A・ハインライン著、矢野徹訳、ハヤカワ文庫)
    「課税する権力、そいつを認めたら最後、際限がないものなんだ。それはそれが破壊するまで続くものだよ。…ときどきわしは思うよ、政府とは人類が逃れることのできない病気かもしれぬとね。だが、それを小さく、貧乏で、無害なものに留めておくことは可能かもしれない」。ベルナルド・デ・ラ・パス教授、あなたのお説、最高です。
  • 「フランケンシュタイン」(メアリー・シェリー著、森下弓子訳、創元推理文庫)
    博士の助手のイゴールが出て来ません。落雷の電気で「被造物」が命を得る場面もありません。「花嫁」も出て来ません。しかし、怪物がド・ラセーの一家の物置に潜んで、言葉を覚え、家庭の温かさに触れ、「笠地蔵」みたいになりますが、そこで「よい精霊が」という会話が出て来ます。これは『ミツバチのささやき』の出典です。
  • 「ゴースト・ハント」(H・R・ウェイクフィールド著、鈴木克昌他訳、創元推理文庫)
    メイポールを題材にした『最初の一束』が面白い。諸星大二郎と『ウィッカーマン』のファンは読むべきです。そう言えば、福岡女学院では、今もメイポールの祭りをして、メイクイーンを選んでいるのでしょうか。カトーという日本人が登場する『彼の者、詩人なれば…=x、インドを舞台にした『チャレルの谷』も良い雰囲気出しています。
  • 「韓国映画史/開化期から開花期まで」(キム・ミヒョン編、根本理恵訳、キネマ旬報社)
    今でこそ、日本でも隆盛を極める韓国映画ですが、1980年代以前には、公開作もソフト化も殆どありません。『族譜』『憎くてももう一度』『下女』くらいでしょうか。香港のショウ・ブラザーズ製作のカンフー映画、『キング・ボクサー大逆転』のチェン・チャンホー監督は、韓国人のチョン・チャンファだったのですね。初めて知りました。
  • 「怪獣博士!大伴昌司/『大図解』画報」(堀江あき子著、河出書房新社)
    少年時代に、「ぼくら」「少年画報」「少年マガジン」「少年サンデー」等の雑誌に掲載されていた、二色刷り特集記事を貪るように読んだものでした。テレビの怪獣や宇宙人はスーツに過ぎないと知っていながら、大伴の体内構造図を隅々まで目を通さずには居られませんでした。
  • 「超常現象の科学/なぜ人は幽霊が見えるのか」(リチャード・ワイズマン著、木村博江訳、文藝春秋)
    日本人は「疑似科学」が大好きです。その結果として、日本社会はオカルトに甘く、増殖するカルトに対しても無警戒に過ぎると思います。恐らく、科学的思考の基礎が身に付いていないのです。しかし、これを読むと、欧米も似たようなものだと思います。日本でも、もっと、本物の(トリックを暴く)ゴーストハンターが出て来て欲しいです。山田奈緒子だけでは心許無いです。
  • 「古代オリエントの宗教」(青木健著、講談社現代新書)
    著者の言う「聖書ストーリー」が何故に「膨張」し続けるのか。「各民族の神話ストーリー」は何故に「圧倒」されてしまったのか。ブラックホールの正体が知りたいですね。逆に、私の立場は「聖書」の中に取り込まれた異教の残滓を掘り起こしながら、それを日本の土俗信仰(仏教、神道、修験道、陰陽道も含めて)とリンクさせることです。
  • 「雪と珊瑚と」(梨木香歩著、角川書店)
    著者には申し訳ないのですが、今回は、唐津のり子の装画と名久井直子の装幀に魅かれて、新刊即日買いしてしまいました。そろそろ私も「くららさん」の役回りです。古い田舎家のスリッパの中にムカデが入っているのは、私自身、田舎の実家で何度か経験したことです。その生死に関わらず、捕まえたムカデを瓶詰めにしながら、蠱毒を作るようにして、溜めて置くと、凄く良く効く傷薬が出来ます。
  • 「パイド・パイパー/自由への越境」(ネヴィル・シュート著、池央耿訳、創元推理文庫)
    英国の老紳士が幼児を引率して、ドイツ軍占領直後の混乱するフランスから、イギリスへ脱出行を繰り広げます。道中、不運な籤を引くようにして、同伴する子どもの数が増えて行くのですが、そんな失敗と思われる選択が活路を拓いて行くのです。ピーター・オトゥール主演でテレビ映画化されたそうです(放映邦題「はるかなるドーバー」)。
  • 「文人悪妻」(嵐山光三郎著、新潮文庫)
    明治の文壇には、キリスト教主義学校や教会の関係者が多いです。国木田独歩の妻、佐々城信子(『或る女』モデル)が傑作。自由奔放に生きた挙句に開拓伝道をします。それにしても、彼女が「栃木県真岡市に開いた」という「日曜学校」は、その後、どう成ったのでしょう。現在の真岡教会(基督兄弟団)と何か繋がりがあるのでしょうか。
  • 「エロスとグロテスクの仏教美術」(森雅秀著、春秋社)
    圧巻は「ジャータカ」の中にあるという、釈迦の女弟子、蓮華色比丘尼(ウッパラヴァンナー)が、「あなたの瞳に惚れた」と言って付き纏う、ストーカーのバラモンに、自らの両眼(しかも、青い目なのだ!)を抉り取って渡す話です。「マタイによる福音書」5章29節より凄惨です。
posted by 行人坂教会 at 12:57 | 牧師の書斎から

幽径耽読 Book Illumination

  • 「ディミター」(ウィリアム・ピーター・ブラッディ著、白石朗訳、創元推理文庫)
    モザイクのように、断片が組み合わされ、最後に1枚の聖画が姿を現わすような印象を与える作品です。前半のアルバニア編がニコス・カザンザキスの諸作や遠藤周作の『沈黙』を思い出させます。『エクソシスト』の原作者、ブラッディが偶然、フリードキン監督のオフィスで目に留めた新聞記事から生まれた小説なのだそうです。
  • 「カオス・シチリア物語/ピランデッロ短編集」(ルイジ・ピランデッロ著、白崎容子・尾河直哉訳、白水社)
    ピランデッロの作品には「諦念」があります。例えば、『母との対話』の中には、「死者の目を通して、もう一度、世界を見て御覧」というような、不思議な助言があります。因みに、『誘拐』は、3人の若者に誘拐された老人が監禁状態のままで、若者たちと家族のような関係を育む、岡本喜八の映画『大誘拐』そっくりの話です。
  • 「交響詩篇エウレカセブン」全6巻(BONES原作、片岡人生、近藤一馬画、角川書店)
    テレビアニメ放映時より、髪留めをしておでこを一杯に出したエウレカとアネモネのデッサン(特に、エウレカのコスチューム)が好きで、通しで読んでみたいと思っていました。1巻目はトラパーの波に乗り切れませんでしたが、2巻目で胸キュン、3巻目で目頭が熱くなりました。ジュヴナイル版『惑星ソラリス』です。
  • 「図説・死因百科」(マイケル・ラルゴ著、橘明美監訳、紀伊國屋書店)
    山田風太郎の『人間臨終図巻』は有名人の死に方を享年順に解説した名著ですが、こちらは死因別に扱っています。題名通り著者の主たる関心事は「死因」にあります。従って、結果的に著名でない人々も数多く採り上げられていて、庶民の生き死にについても一様ではないと感慨深く読みました。巻末付録の「墓碑銘」は傑作です。
  • 「しどろもどろ/映画監督岡本喜八対談集」(岡本喜八談、ちくま文庫)
    『肉弾』製作の資金集めのために、私立の「学校債」を参考にした等という、お連れ合いの岡本みね子の話は実感があって泣けます。私たちの業界もビンボーなので、会堂建築の時には「教会債」を買って貰って、借金を返済して行くことが多いですから。
  • 「虎よ、虎よ」(アルフレッド・ベスター著、ハヤカワ文庫)
    SFバイオレンス版『不思議の国のアリス』。作者自身は、デュマ・ペールの『モンテ・クリスト伯』を下敷きにしたようですが、ファンタジーとして読むことも出来るような気がします。実際、クライマックスの文字遊びは「アリス」です。核攻撃を受けた瞬間に「ジョウント/テレポート」する等、相変わらず、欧米人の核意識は楽天的ですね。
  • 「ロマンポルノの時代」(寺脇研著、光文社新書)
    映画作品そのものへの愛情溢れる批評もさることながら、映画制作に携わったスタッフとキャストに向けられた細やかな目配りに驚きました。第12章「ロマンポルノの男優」は圧巻です。多様なスタッフとキャストの組み合わせ(にっかつの製作システム)から生まれる「新鮮な化学反応」が数々の名作を生み出したのですね。
  • 「世界の特殊部隊/戦術・歴史・戦略・武器」(マイク・ライアン他著、小林朋則訳、原書房)
    イスラエルの特殊部隊がテルアビブで「民間人を避難させてから空爆を行なった」から人道的であるかのような記述があり、その事実性も含めて、これには違和感があります。専ら体制側からの視点です。それよりも、作戦が失敗した事例が抜群に面白いです。1985年の航空機乗っ取り事件で、エジプトの特殊部隊(第777任務部隊)の救出作戦が失敗、人質57名を死亡させる結果に終わります。凄すぎるでしょう。
  • 「牛乳屋テヴィエ」(ショレム・アレイヘム著、西成彦訳、岩波文庫)
    言わずと知れた『屋根の上のバイオリン弾き』の原作。時代背景が日露戦争とあって、日本への言及も意外に多く、『坂の上の雲』にも登場する米国のユダヤ人銀行家、ジェイコブ・シフのことを思い出しました。映画だと「三女ハヴァ」の話(異教徒との恋愛結婚)で終わりですが、四女、五女の話もあったのでした。テヴィエ、苦労してます。
posted by 行人坂教会 at 09:02 | 牧師の書斎から

2008年03月09日

牧師の書斎から

この世を生き抜くためのサバイバル・キット

この国では、年間、3万人以上の人たちが自らの命を断っています。立ち止まって、周囲を見回してみても、子ども、若い人たち、 若い母親たち、父親たち、中高年の人たち、老人たち…。 誰を見ても、平和を謳歌し、幸せを享受しているとは、到底、思われません。 不幸の影は深く社会を覆っているが、その元凶が何なのか、どうすれば、その影を取り除くことが出来るのか、誰にも確かなことは言えません。

ただひとつ言えることは、それでも、私たちは、この酷い世の中を渡って行かなくてはならないということです。「この世で生き抜くためのサバイバル・キットとして役立つ、フィクションが必要だ」と、「ブラッカムの爆撃機」 (岩波書店)巻末の解説「ロバート・ウェストールの生涯」に、ピーター・ホリンデイルという人の言葉が紹介されていました。

もしかしたら、私たちが手にしている聖書も、胸に抱いている信仰も、脳裏に明滅するファンタジーも、 他者との間に切り結ぶ愛や信頼や友情も、そもそも「この世を生き抜くためのサバイバル・キット」では無かったでしょうか。 この酷い世界と戦い続ける「勇気」を与えてくれるものでは無かったでしょうか。 その意味で、私たちは、沢山の「物語」を若い人たちに伝えなくてはならないと思います。

posted by 行人坂教会 at 12:13 | 牧師の書斎から